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鹿児島地方裁判所 昭和25年(行)16号 判決

原告 園屋休左衞門 外一名

被告 江内村長

一、主  文

被告江内村長柳ケ水槌太郎が昭和二十五年九月五日なした鹿兒島縣江内村議会の解散処分は無効なることを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文第一項同旨の判決を求め、その請求の原因として、

原告らは昭和二十四年五月十日以來同二十五年九月五日迄鹿兒島縣江内村議会(以下議会と略称する)の議員の地位にあたつたもの、被告は現在同村長である、そもそも江内村は同二十四年四月一日鹿兒島縣三笠村から分村したのであるが、分村前三笠村においては金百三十万円程度の村営診療所を江内に設置するの議がまとまつていたのに拘らず当時三笠村議会議員であつた被告はこのことが分村の封鎖策に利用されるのを恐れてその設置を中止することにしたところが右のように江内村は分村し、被告は同村長となつたが同人は昭和二十五年六月二十六日開催の江内村定例議会に第三十八号議案として「村営診療所設置に伴う起債に関する件」を上程したので之に対し、同議会は具体案を得るにいたる迄その議決を留保した。しかして被告は、更に同案を同年七月三十一日の臨時議会に第四十七号議案として提案し議会はこれを重大案件であるとなし、これに関して部落輿論調査をすることに決定し、直ちに議会議員を三班に分ちこれに関する調査を実施し、同年八月八日定例議会の際その結果報告があり、次に同年八月十一日の定例議会に右の案件が上程され表決の決果議長の決するところによるとのことであつたので、議長は更に愼重審議の必要ありとして議案を留保し、他町村の診療所を視察したうえことを決することにし、その爲同年八月二十二日の臨時議会で特別委員五名を選任し、同人らが村長、助役、村健康保險主任らと共に隣村米之津町、野田村、大川内村、高尾野町の四ケ所を視察し、その結果によつて更めて審議決定することに決した、次で同年九月一日議会を再開し、午前中に特別委員会を開き審議の結果本案は一時延期し、時期をみて決するとの結論を得たので、同日午後本会議で特別委員長はその結果を事務局をして報告書に基き報告させたところ、被告から「本案件については母村(三笠村)の村長とも折衝を続けた訳であるが、若し同案が否決されるに至るなら村長としては議会を解散するか村長が辞するかの問題である」とその決意を披歴したので、議長はこれを協議会に切り替え議会へ諮つたうえ更に議会を同年九月五日に延長し、同日の議会で本問題について審議し、表決の決果投票数十二票の中原案賛成二票不賛成九票、無効一票となり本案は否決された。そこで被告はただちに地方自治法(以下法と略称する)第百七十八條により議会を解散する旨宣言した。然し普通地方公共団体の長は議会が不信任の議決をしたときにはじめてその議会を解散することができるのであり同法第百七十七條第四項は同條第二項第二号の非常の災害による應急若しくは同復旧の施設の爲に必要な経費又は傳染病予防の爲に必要な経費を削除し又は減額したときは当該普通地方公共団体の長はその議決を不信任の議決とみなすことができるのである。本案件はその孰れにも該当しないことが明白であるに拘らず、被告は本案件が否決されたのを直ちに同人に対する不信任の議決であると爲し議会を解散したのは明らかに違法である。以上のような次第であるから右解散処分の無効確認の宣言を求める爲本訴請求に及ぶと述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は、

先ず本案前の答弁として「原告等の訴はこれを却下する」との判決を求めて、

その理由として、

「地方公共団体の長がその議会の解散をなした場合、その議会が解散の効力を爭うこと(機関爭訟)は地方自治法上許されないところであつて本件において被告のなした解散処分に対し当該議会の構成員である原告等において解散処分を爭うことは地方自治法上許されないところであるから、本訴請求は不適法として却下さるべきものである。」

と述べ、本案の答弁として、

「原告等の請求はこれを棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求め、その理由として、

原告主張事実中原告らが原告主張のような議会の議員であつたこと、被告が江内村長であること、原告ら主張のような分村の事実及び分村前の三笠村に於て村営江内診療所設置の計画があつたこと、原告主張の「村営診療所設置に伴う起債に関する件」を被告が原告主張のように提案し、その主張のような経過の下に於て審議が重ねられ、被告が原告ら主張のように本案件が否決された場合についての決意を披歴したこと、右江内村議会において原告ら主張のような表決で本案件が否決されたこと、その結果被告が同議会を解散したことは孰れもこれを認めるがその余の事実はこれを爭う。そもそも三笠村では昭和二十三年度に厚生省の認可を受け補助金二十一万三千九百円の交付を受けて村営江内診療所の設置を計画していたが同二十四年四月一日分村後においても江内村民の輿論に從いその福祉増進の爲該診療所設置の爲補助金獲得等に盡力しその実現を期し、昭和二十五年六月二十六日江内村議会に「村営診療所設置に伴う起債に関する件」を第三十八号議案として提案した。ところが議会は多数を擁して屡次に亘つて同議案の議決を留保し、なお原告ら主張の部落輿論調査に際しても村当局者の参加を拒否しその偏見を流布し被告に対する不信任の態度を示してきたので、被告は昭和二十五年九月一日の議会で從來の経緯にかんがみ同議案の賛否は村長に対する信任の有無をも確かめるものであることを特に表明して表決を求めたに拘らず、同月五日の会議で本議決を否決し去つたので被告は村長不信任の趣旨をも含む議決であると認めて同議会の解散を爲すにいたつたものである。しかして法第百七十七條の規定は、議会の議決を地方公共団体の長に対する不信任の決議と見做し得る例示的規定であると解することを妥当とし、更に同法第百七十八條に所謂不信任の議決は、單に形式上不信任の議決を爲した場合に限定されることなくその議案の一切の事情並びに審議の経緯に徴し実質上不信任の表意を含む場合も又これに該当するものであると謂うべく、本件は正しく議会の被告に対する不信任の議決であると謂うことができる。從つて本件解散は適法且つ正当になされたものである又仮に被告の右解散の処分が正当でないとするも、法律上当然無効のものにあらず單に取り消し得べき場合に該当するからその無効確認を求むる本訴は失当である。又仮に被告の解散処分が違法であつたとしても村営診療所の設置は、從來の一切の事情を考慮するときは村民大衆の福祉増進上緊急の事業であるから、これを阻止しようとする議決に基く本件解散処分の無効確認又はこれが取消は所謂公共福祉に適合しないもので、この点からしても本訴は失当であると述べた。(立証省略)

三、理  由

まず、被告の本案前の抗弁につき考察するに、地方公共団体の長のなした議会の解散処分に対し、その議会自体が当事者として解散処分の効力を爭うこと、すなわち機関訴訟が地方自治法上明文のない限り許されないと解するか否かはしばらくおき、もともと解散処分はこれによつて議会は解散せられ議員は当然失職するの効力を生ずるものであるから、これを議員自体からみるならば解散処分によつて議員の資格を剥奪されたことになるので、該処分は議員に対する議員資格の剥奪処分であるということができる。そこで、該処分に違法の存する場合、これを理由としてその取消、変更、又は無効確認を求める法律上の利益を有する限り、議員は個々的に抗告訴訟、又は無効確認の当事者訴訟を提起し得ることは当然であるので、被告の右主張は理由がないというべきである。

次で、本案につき考察する。

原告等が昭和二十五年九月五日当時、江内村会議員の地位にあつたこと、右九月五日江内村議会において原告主張の議案が否決されたこと、同日被告が地方自治法第百七十八條に基いて議会の解散を宣言したことはいずれも当事者間に爭がない。

そこで、被告のなした議会の解散処分が適法であるか否かにつき考察を進めるに、もともと普通地方公共団体の行政は、住民の直接選挙に基く執行機関である普通地方公共団体の長と議決機関である議会とが相並立し、それぞれ独立の地位において議決と執行を掌るのであり、両者は共に住民の選挙によつてその地位にあるものであるから、両者の間に意見の対立、抗爭の発生した場合は、相互の政治的折衝によつて解決を図り、絶対にこれが解決を図ることができないときは、一般住民の意思によつて決することが最も民主的であるとの立前から、議会に対しては長に対する不信任議決の権限を與えると共に、長に対してはこれに対抗する方法として議会を解散する権限を認めたのが地方自治法第百七十八條の立法趣旨である。

故に不信任議決は、長と議会との対立がもはや尋常の手段を以てしては事態を收拾することのできない場合になさるべき性質のものであり、その上不信任議決は、その法的効果として、議会の解散、議員又は長の当然失職を伴い、自治行政の上にきわめて重大な影響を及ぼすものであるから、これが軽々しく行わるべき筋合のものではないといわねばならぬ。以上の前提の下にことがらを考えるならば、自ら不信任議決は明確性を必要とすると解しなければならない。しかし、必ずしも不信任案を可決した場合のみには限らず、長自体に対して直接なされた議決で客観的に不信任の議決と認められる場合、たとえば信任案否決の議決、辞職勧告の議決等はこれに包含されるが、その他の場合はただ地方自治法第百七十七條第四項により議会において「非常の災害に因る應急若しくは復旧の施設のために必要な経費又は傳染病予防のために必要な経費」を削除し又は減額する議決をしたとき当該普通地方公共団体の長が理由を示してこれを再議に付したのに同議会の議決がなお前記経費を削除し又は減額したとき当該長はその議決を不信任の議決とみなすだけであり、それ以外はたとえ当該普通地方公共団体の長において本案の否決が長に対する不信任の議決であるとみなすとの一方的意思表示をなした場合でも、不信任の議決とはいいえないと解すべきであり、かく解してこそ前記法の趣旨によく適合するというべきである。そこで、これを本件に当はめて見るならば前記否決された議案の議決は、單に診療所設置案の否決にとどまり、以上説明のいずれにも該当しないことは明らかであるのみならず、成立に爭のない甲第一号証(江内村議会会議録)に徴しても右議案は九月一日と同月五日に審議され九月五日の議会においてはじめて否決されたにとどまり、その後江内村長において理由を示して再議に付した事実はないから、かりに右診療所設置案が傳染病予防のために必要な経費と解しえられないことはないとしても、右否決の議決を地方自治法第百七十七條第四項に則り不信任の議決とみなすことはできない。もつとも同号証によれば被告は右九月一日の会議において本案を否決された場合、村長としては議会を解散するか村長をやめるかいずれかの問題である旨の意思を表明しているが、かかる言動は議員を強迫して自己の所信を全うせんとするものであり、民主政治下の地方自治団体の長としては愼しまねばならぬ非民主的な言動であるだけでなく、右宣言をもつて長自ら自己の信任議案を提出したものとは解せられず、それに何等法律上の効果のないことは明らかであるのみならず、成立に爭のない甲第一乃至四号証によれば同議会としては事案を重大なりとし、部落毎に輿論調査をなし隣接町村の診療所の状況をも視察し、特別委員会を設けたりして愼重審議をした結果、江内村の現在の財政状態からしては本件議案を時期尚早であるとして原案賛成二票不賛成九票無効一票として表決したことが明らかであり、江内村長を信任するか否かとは何等の関連のないものであることが明らかである。よつて該議決を以つて不信任の議決ということはできない。しからば、被告は不信任の議決がないのに、解散処分を行つたものといわざるを得ず、右解散処分が違法であることはいうを俟たない。

しからば、右解散処分は当然無効か、あるいは單に取り消し得べき行爲に過ぎないかの問題を生ずるのであるが、普通地方公共団体の長が地方自治法第百七十八條に基いて当該議会の解散処分をなすがためには長不信任の議決がなされるか又は同法第百七十七條第四項の不信任の議決とみなされる議決がなされることが絶対に必要であり、議会で以上の長不信任の議決又は不信任の議決とみなされる議決がなされない限り、長には同議会を解散する実質的な権限は生じないものであるから、本件被告のなした解散処分は実質的な権限なくしてなされたものであり、当然無効であると解せねばならない。

被告は、行政事件訴訟特例法第十一條の主張をなすのであるが本條は同法第二條の抗告訴訟の場合の規定であつて、單に行政処分の無効確認の宣言を求める本件にはその適用はないのであるから、本件解散処分が当然無効である以上、この主張も理由がない。

よつて、原告等の本訴請求は正当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟特例法第一條、民事訴訟法第八十九條第九十五條を適用して主文のとおり判決したしだいである。

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